精神科に行って薬をもらった

生まれて初めて精神科に行った。

 

職場環境はそこまで悪くない。同僚間でのいざこざも無く、おおむねゆるい雰囲気で仕事生活を送っている。誰かにいじわるされたり、セクハラされたりしていない私だが、へらへらと外面は良いので元気で適当に物事を流しているように見られがちだ。

そしてそれはある程度真実だ。そんな自分の性格上、縁のない場所だと思っていた「精神科・心療内科」。人生23年目にして、ついに初上陸を果たした。

 

劣悪ではない職場環境の中、それでも精神科に行ったのは、ただひたすら仕事がつらかったのと、それによる気分の落ち込みが休日だけでは戻らなくなってしまい、数少ない有休をここ数ヶ月消費し続けたのが理由だ。

 

愚直だけど、もし何か名前が付くようなものなら、診断書を書いてもらって、1週間くらい休んで一人でどこか遠い島にでも行って仕事のことを忘れてゆっくり過ごしたいと思っていた。

 

仕事の日だけ朝から体がだるく、頭痛がする日々が続き、丑三つ時まで眠れなかったり、目覚ましが鳴る前に起きてしまったりということがあった。仕事に遅刻する夢も頻繁に見た。

仕事中は寝起きのような倦怠感を引きずったまま、一日中イライラしていた。目の前に来るお客さん全員の死を願い、立ち去った後に机を叩いたり壁を蹴ったり後ろ姿を睨みつけたりしていた。頭の中には罵詈雑言と差別的な暴言しかなかった。私が「いつか殺してやるリスト」を作らないのは、殺してやりたいほど嫌いな奴の名前を記録しておくのが嫌だからという理由だけだ。

同僚がお客さんや上司に怒鳴られているところを見たり聞いたりすると動悸がして、少しでも物の扱いが粗雑な人が来てペンやノートを音を立ててカウンターに置かれると、そのたびに心臓が凍るような気持ちになり、顔が引きつった。二度とそんな客が来ませんように、と心から願いながら、怯えながら、不安に囲まれながら出勤し、仕事をしていた。

貧乏ゆすりする後輩にも、態度の大きい先輩にも、肩で風を切って歩いている同期も大嫌いで見るたびに吐き気がした。全員消えろと思っていた。

 

そんなふうに、私の頭の中は負の感情で満たされていた。

こんな気持ちで働いているのは辛い。たとえ原因が自分だとしてもだ。私の態度が悪いのが気に障ったお客さんが、仕返しとして傲慢な態度を取っていたとしても、結果的に全てが大したことない思い込みなんだとしても。

できれば休日も平日も楽しい気持ちでいたい。誰の悪口も頭の中に思い浮かべたくないし、誰に対しても負の感情を抱きたくない。

 

「診断書だけもらって長い休暇でももらおうか」なんて邪な思いも確かにあったけど、これ以上自分を放っておいたら、いつか簡単に死を選びそうで怖かった。毎日ホームに来る電車のライトを見てぞわっとした気持ちになるのも恐ろしかった。

精神科に行くのはとてもハードルが高かったけど、邪な気持ちに背中を押され、Googleマップで比較的評価の良い病院を探して受診することにした。

みんなどういう症状で通っているのか全くわからなかったが、「診察中メモばっかりとってる」「受付のお姉さんの態度が最悪」など色々なコメントが付いていた。

 

私が病院に行くと、患者さんがちらほら椅子に座っていた。

みんな通っていて経過観察をしているだけだからなのか、診察はすぐ終わっている。海外ドラマと洋画の見過ぎで、真っ白なつなぎを着たジョーカーみたいな人が両腕を固定されて…という偏ったイメージを持っていた私は、患者さんのラインナップがあまりにも平凡な雰囲気で面食らった。みんなこんなに普通に見えるのに、内面にさまざまな苦しみを抱えているのだ。

 

さて、初診だった私は先生と話す前にお姉さんとお話しすることになった。忘れちゃったんだけど「ナントカ士」っていう肩書きのあるお姉さんで、どんな症状があるのか、どんな勤務形態で働いているのかなどを話した。

小さなことでもメモを取ってくれて、余すところなく聞いてくれようとしているように感じた。「診断書だけもらいにきたんだろこの腑抜け野郎。てめーのはただの怠惰だ」などという態度をとられることもなかった。

 

その後しばらく待たされたあと、先生とご対面した。若いお兄さんで、私の仕事の多忙さに共感しながら薬での治療を勧めた。

正直、時期的に見ても診断書もらって休むには微妙だったので、薬をもらってみることにした。

 

診察は2500円程度。薬は3種類、1000円程度。

1週間後にまた行くことになった。薬の効果を見たいそうだ。

貰ったのはイライラを抑える漢方、不安な時に飲む頓服薬、それから睡眠薬

 

正直、驚いた。イライラを抑える漢方なんて初めて聞いた。それに不安な時に飲むジェネリック医薬品、そしていつでも簡単に寝付ける睡眠薬

そんな薬があるなんて思いもしなかった。そして自分が服用することになろうとは。

便利な世の中になったもんだ、と素直に感心してしまった。そのうち幸せになれる薬が発売されるかもしれないなと思った。

 

私の症状などは、「あなたはただ気性が荒いだけですね」と追い返されるレベルの軽いものかと思っていたが、薬まで出て本当に驚いてしまった。私に長期休暇より薬を勧めた先生の言うとおり、診断書で休んでも根本的な解決にはならないのは確かだ。

漢方の効果を心から期待している。